
──2011年にオーストラリアへ赴任したHさん。期待に胸を膨らませて始まった海外駐在ですが、そこには予想外の壁があったといいます。英語は“できる”つもりだった彼が、現地で何を感じ、どう乗り越えたのか。リアルな声をうかがいました。
――赴任が決まったとき、どんなお気持ちでしたか?
いやもう、本当に嬉しかったです。赴任の辞令を受けたのが2011年の2月14日だったんですが、その日は今でもよく覚えています。昔から「いつか海外で働きたい」と思っていたので、「ついに来たか」と。夢が現実になる瞬間ってこういう感じなんだな、と思いました。

僕自身、海外旅行とか出張での経験はそれなりにあったし、「海外=未知の場所」というよりは、「やっとここからキャリアが広がるぞ」という前向きな気持ちが大きかったですね。正直、不安よりもワクワクが勝ってました。
――英語力に関してはどうでしたか?
当時の自分としては、「業務で普通に使ってるし、まぁ大丈夫でしょ」っていう感覚でした。メールや電話のやりとりは日常的にやってましたし、社内の英語プレゼンにも何度か登壇していました。だから、「自分は英語、まあまあできるんじゃないか」と思ってたんですよね。
でも今振り返ると、それって「日本にいる日本人相手に英語を使っていた」というだけで、実際の“異文化の中で英語を使う”経験とは全然違ってたなと痛感します。つまり、“使えていたつもり”だったんです。
――実際に現地で働きはじめて、どんな壁がありましたか?
最初に直面したのは、会議がまったく聞き取れないっていう現実ですね。話の内容が頭に入ってこない。「この人、何を言ってるんだろう…」っていう感じで、全体像が見えない。
訛りもあるんですけど、それ以上に、議論のテンポとか言い回しがまったく予測できないんです。日本のビジネス英語の感覚で「こう来たらこう返す」みたいな展開が通用しない。
あと、ショックだったのは「わからない」と思ったときに、頼れる参考書や日本語の解説がないこと。あたりまえですけど、現地の書店に『オーストラリア英語でビジネス会議を乗り切る本』なんて置いてませんから(笑)。ネットで調べようとしても、自分が何につまずいてるのかも分からないし、もう途方にくれるしかなかったです。
――赴任前にやっておいて良かったと思うことは?
事前に現地の知人に連絡を取っておいたことですね。これは本当に助けられました。
「着いたらご飯でも行きましょう」くらいの軽い感じで声かけたんですけど、実際に赴任してみると、その“ちょっとしたつながり”が、めちゃくちゃ心の支えになったんですよ。生活のアドバイスをくれたり、現地のちょっとした習慣を教えてくれたり。そういう“人とのつながり”が、語学力以上に重要なんだと実感しました。
――現地での業務で、日本との違いを感じた場面はありましたか?
めちゃくちゃありましたね。特に“指示の出し方”です。
日本だったら、「これお願いできますか?」って言えば、部下は基本的に動いてくれるじゃないですか。でもオーストラリアでは、「なぜそれをやるのか」「その背景は何なのか」を説明しないと、まったく動いてくれない。

僕、最初は「本社からの指示なんだから、やって当然だろう」って思ってたんです。でも現地のメンバーからすれば、「それって本当に意味あるの?自分がやる理由あるの?」というスタンスなんですよね。
その違いに気づかず、最初はかなり強引に進めてしまって、正直、関係がギクシャクした時期もありました。やっぱり、文化の違いって「言葉の壁」だけじゃないんだなと強く感じました。
――現地スタッフとの関係構築で、成功したことはありますか?
はい、これはもう断然、社内でフットサルチームを立ち上げたことです。
僕自身フットサルが好きだったんですが、仕事以外の時間に一緒に汗をかくと、やっぱり距離が縮まるんですよね。言葉がうまく出てこなくても、笑ったり叫んだり、感情の共有ができる。

あと、「この人、仕事以外でもちゃんと人間味あるな」って思ってもらえるのかもしれません。そこから仕事のやりとりもスムーズになっていったように感じます。英語力というより、共通体験をどう作るかが大事だったんでしょうね。
――逆に、失敗したなと思うことは?
あります。忙しさにかまけて、頼まれていたことを後回しにしてしまったんです。それ自体は英語とは関係ないんですけど、「できないならできないで、誠実に説明すべきだった」と今でも反省してます。
やっぱり現地の人たちは、“できるかどうか”より、“ちゃんと向き合ってくれてるかどうか”を見てる気がします。スキルや語学よりも、人としての信頼感の方が大事なんですよね。
――文化やコミュニケーションで、事前に知っておきたかったことはありますか?
たくさんありますけど、一番は「ユーモアの大切さ」ですね。ジョークを交えながら話す、相手のボケにツッコミを入れる——そういう“余白のあるコミュニケーション”が求められるんです。
あと、説明責任。前提や背景を丁寧に語るスキルが、かなり重要でした。日本だと「察してくれる」と思ってしまう場面でも、相手にしっかり言葉で伝えなきゃいけない。その部分を事前に知っていれば、だいぶ楽だったと思います。
――今、駐在前に戻れるなら何を準備しますか?
迷わず「異文化コミュニケーションのルール」ですね。語彙を増やすとか、文法を復習するとかも大事ですけど、それ以上に「相手は何を前提にして会話しているのか?」ということを理解する力。
あと、会議のロジック展開や、議論の仕方。これは事前に学べるものなら学んでおくべきだったなと思います。現場に入ってから学ぶのは、時間もストレスもかかりますから。
――これから駐在される方に、ひとことお願いします。
英語ができるかどうかっていうよりも、「相手と信頼関係を築けるかどうか」がすべてだと思います。
正直、英語なんて多少拙くても、信頼されれば何とかなります。でも、言葉が上手でも信頼されてなければ、まったく伝わらない。
だから、言葉の“正しさ”だけじゃなく、“どう伝わるか”に意識を向けてほしいですね。そうすれば、きっと現地でもうまくやっていけると思います。
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